さわやかトラウマ一人旅日記

音楽が好きな30代男がぼっちを極めるため、世界や国内をヤケクソ気味に一人旅をしたその記録です!

おじさんぼっちでローマの休日11:春の祭典

エステ荘から地下鉄駅に向かうバスの中で「いけないいけない(治安が悪いので)眠ったらダメ」と思いつつ睡魔が襲ってきて寝てしまった。疲れていたのだ。

今日の予定は午前:エステ荘 午後:コロッセオ&フォロ・ロマーノ、18時半からローマ市内でクラシックのコンサートという予定だったが、前日フィレンツェから帰ってきた段階でかなり疲れて、明日の朝は早起きせず、コロッセオ&フォロ・ロマーノはあきらめようと決めたのだ。

結局コロッセオ&フォロ・ロマーノサン・ピエトロ大聖堂というローマ観光の定番3箇所に行かなかった。残念無念。

 

バスは終点の駅について、また地下鉄B線に乗り換えた。それにしても地下鉄は臭い汚い怖いの3K(死語)なこと、このうえない。

地下鉄A線は観光地が沢山ある路線なので、いつでも人がいっぱいであまり気にならないけど、地下鉄B線は閑散としていてなんだか怖い。

テルミニ駅から地下鉄A線に乗り換えて、トレヴィの泉のある駅で降りた。ここにある骸骨がたくさんある教会に行こうと思ったのだ。いかにもサブカル上がりのおっさんが好きそうな場所である。

しかし、疲れなのか何なのか地図を見ても辿りつけなかった。そんなに難しい場所にあるわけでもないし、地図を見れば大体のところに行ける自信はあったのに。途方にくれて諦めた。

この後はコンサートに行く。ヴァシリー・ペトレンコ指揮、国立ローマ聖チェチーリア音楽院の管弦楽団と合唱団のコンサート。旅行期間中、オペラ座以外で唯一(たぶん)開催されていた本格的なクラシックのコンサートである。観光客用の教会コンサートとかはあってそれもよかったんだけど、日程の都合上やめた。

 

会場は「Auditorium Parco della Musica」(オーディトリウム•パルコ•デラ•ムジカ)というレンゾ・ピアノという偉い人が設計した素晴らしい所らしい。1つのコンサートホールだけではなく、いくつかのホールや、展示場があるっぽい。

 

地図で見ると街から離れたところにある。

テルミニ駅から「M」の番号(MusicのM)のバスで行くのが一番分かりやすいらしいが、地下鉄A線の 「Flamminio」駅からバスが出ているらしいということで、そこまで移動する。

Flamminio駅で降りるとバス乗り場らしきところはあるが、どこで、どれに乗っていいのかわからない。この駅にも止まるらしい「M」のバスも見当たらない。

事前に口コミ情報も調べて「Flamminio駅から2番のバスが頻繁に出ています」と書いてあった。しかし、2番のトラム(路上電車)は出ているが、バスはなかった。

頭が混乱していた!疲れている!馬鹿がさらに馬鹿になっている!

Mのバスもいつまでたってもこない。この後わかったのだが、2番のトラムにそのまま乗ればよかったのだ。口コミ情報の人が「バス」と「トラム」を間違えて書いただけだった。そんな考えは疲れた頭と「違うところに行ったらどうしよう」という恐怖感に囚われているので、思いつかない。

開演時間が迫ってきた。こうなったらタクシーしかない。しかし細かいお金がない。ローマのタクシーは全くお釣りを払わないらしい。

近くのBARに入ってカプチーノ立ち飲みをしてお金を崩した。カプチーノで立ち飲みでお金を崩すなんて…僕ってイタリア人?ゲヘヘとくだらない事を後になって思った。この時はかなり焦っていた。

意を決して外に出て、タクシーを探すも、全く来ない。なんでいつもこうなんだ、タクシーに乗りたい時には来ず、バスに乗ろうと思うとバスが出発する。しかし、タクシーを探しているとなんと「M」の番号のバスが来た。日本バスでいう正面の上の行き先表示にも「Auditorium Parco della Musica」と書いてある!なんだラッキー♪機嫌よくバスに乗った。

 

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会場に到着した。単なる音楽ホールではなく「文化総合センター」という感じで、家族連れも沢山いる。今日は土曜日。特設のアイススケート会場もあった。イタリアはフィギュアスケートも盛んな国。カロリーナ・コストナーみたいな有名選手もいる。

大きな本屋やオシャレなレストラン、フードコートみたいなピザ屋、カフェ、いろいろあって楽しそうな場所。もっと早く到着したかった。開演時間まであと15分。ゆっくり見る余裕は無かった

 

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ホールはこの下から更に別の建物に入る。この空間は野外劇場としても利用されているらしい。上の丸い建物はなんだろう?謎…

そんなこんなで、会場に入る。小さなバッグを持っていると止められて、クロークに預けるように言われる。日本と違って会場のチケットもぎりの人の愛想が無くて、まあこんなもんかと思う。日本がそういうところに頑張りすぎでサービス過剰だとも常日頃感じているので…。

日本でネットから買ったチケット は1階席。日本の感覚からすると一番良い席のカテゴリでも50ユーロくらいなので安い。迷わずそのカテゴリのチケットを買った。ちなみに会場は広くて、サントリーホールを一回り大きくした感じ。

案内係ぽいお姉さんが入り口にいたのでチケットを見せるとご親切にイタリア語で説明してくれた。わからない…

とりあえず「グ、グラッツェ」と挨拶して指さした方にいくとなんとなく場所がわかった。席番号が「1番」となっていたので、一番端っこの席カナなんて思っていたら、思いっきりセンターだった。しかも1階の最初の通路挟んで3列目のどまんなかという超SS席だった。

あまりの素晴らしい席に「ヒー」と岡田あーみん風の声を心の中で出しながら、周りを見ると昔の音大時代に声楽科の先生達が来ていたような毛皮のコートを来た富裕層っぽい人たちが周りの席に沢山いた。あら???オペラ座より、格調高くね???また「ヒイー」と心で叫んだ。オペラ座の教訓から、ラフとまではいかないけど普通の格好で来たのだ。

ただまあキャパ2000超の会場なので、普通の格好の人も沢山いる。あまり気にしないことにした。会場はほぼ満員だった。

 

プログラムは

指揮/ ヴァシリー・ペトレンコ

演奏/ 国立ローマ聖チェチーリア音楽院 管弦楽団と合唱団

曲目 

1.ドビュッシー作曲 交響組曲「春」

2.ラフマニノフ作曲 バリトンと合唱、管弦楽のためのカンタータ《春》Op.20

(休憩)

3.ストラヴィンスキー作曲 バレエ音楽「春の祭典」

 

という曲目だった。見ての通り全ての曲に「春」が付き、コンサートのテーマは「春の祭典」である。

ストラヴィンスキーの「春の祭典」は今年は初演100周年を記念して…ということらしい。

指揮者のヴァシリー・ペトレンコが登場する。若い!若いオーラが満ち溢れていた。それもそのはず!僕と同じ年齢だった!そりゃ若いはずですね!アハハ!

ロシア人でサンクトペテルブルグ音楽院出身、ショスタコーヴィッチ合唱指揮コンクール1位、プロコフィエフ国際指揮コンクール2位など、ロシア好きの自分からみたらポーッとしてしまう経歴の持ち主。同じ年でここまで違うなんて…。

「ヴァシリー…聴かせてもらうよ…君と僕は永遠のライバル…」とかいつもの妄想を始めようかと思ったがリアルにレベルが違いすぎるので止めた。

 
Debussy - Printemps, avec le choeur initialement prévu (1887)

ドビュッシーの交響組曲「春」はローマ大賞(すごい賞)を取ったドビュッシーがその賞の特典としてローマに滞していた時に作曲した隠れ名曲。ちなみにドビュッシー先生にはローマという場所はあまり合わなかったらしい。

この曲も当時評価されず、オーケストラ用の楽譜が燃えて無くなったりして、別の人にお願いしてオーケストレーションしてもらって陽の目を見たという不遇な曲。

この日は珍しい合唱入りのアレンジだった。ヴォカリーズ(アーで歌う)の混声合唱で、ドビュッシーでいうと夜想曲の3楽章に近い感じ。

この日一番気に入った演奏がこれだった。昨日フィレンツェのウフッツイ美術館で見たポッティチェリの絵画「春」がモチーフの一つらしい。

春の温かい浮遊感が広がるような感じと合唱の響きが良く合う。間違いなく「春」という曲だった。うーん思った以上にオーケストラが上手い。緩急の付け方や歌い方もさすがという感じ。

何より指揮が素晴らしい。席がど真ん中なので指揮が目に入るが、自分も演奏しているような気持ちになる。

ドビュッシーがローマで作曲した曲を、ローマで聴けて嬉しかった。しかも昨日モチーフになった絵を生で見た。いやークラシック好きでよかった。

曲が終わった瞬間ブラボーの声で包まれた。僕も感激してまるで子供のように拍手をした。 

 


С. В. Рахманинов - кантата "Весна"

ラフマニノフカンタータ「春」はオーケストラ、バリトン独唱、合唱という編成による曲。なんでもあの名曲「ピアノ協奏曲第2番」の後に作曲されたらしい。「ピアノ協奏曲第2番」といえば、激鬱状態にあったラフマニノフが立ち直るきっかけになった曲。その後に「春」にちなんだ曲を作曲する…ということで精神的な春を表しているのでは云々と勘ぐりたくなる。

あまり聴いたことがない曲だったが、ラフマニノフ独特の陶酔感が、なんだかイタリア・オペラみたいだと感じた。冷静さを忘れて没入している(ように見せる)感じが共通していると思った。ラフマニノフのオペラはどれもあまり演奏されないが、一度聞いてみたいと思った。

 
The Rite of Spring Salonen

休憩を挟んでの「春の祭典」は、歴史的ともいえる難曲で、指揮者の腕の見せどころ。ほんわかムード漂う他の2曲とは違い、春を嗅ぎとった泥だらけの原始人が地面から湧き上がってくるような曲。テンポがかなり早めで崩壊しないか心配だったが、オケはいとも簡単そうにこなしていた。

震える不況和音に、気が違ったようなメロディ、複雑だがどこか一貫性を感じさせてそれがかえって気味が悪く聴こえるリズム、現代音楽ともいえるが、ずっとずっと前の古代の音楽のような気もする。

100年前にパリのオペラ座でバレエとして初演された時は、ニジンスキーの狂った振り付けも相まって暴動になったらしい。クラシック音楽にとっての春はこの時に来て、後はなんとなく季節を繰り返しているだけのような気もする。

演奏はどことなく爽やかに、あまり深入りしない感じに終わったような気がする。テンポが早いせいか。爽やかに爽やかに、アンコールも無しであっさりと終わった。

 

 

 

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お腹すいた・・・昼ゴハンを食べそこねてしまったのだ。

演奏中に腹がなったらどうしようと思っていたけど、いくらクラシックといえどもお腹が鳴るのが他人に聞こえるほど静かじゃなかったのでよかった(オーケストラだし)

会場内にある超絶オシャレなバーに入ってみる。

イタリアではミラノ発祥の「アペリティーボ」というサービスがある。

夜の一番人が集まりそうな時間に飲み物1杯で、おつまみとしてビュッフェ形式の食事も楽しめるというサービス。この店もそれをやっていたので「ビアー アンド…アペリティーボ」といって頼んでみた。

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ビュッフェは自分で取る形式ではなくて、店の人が取る形式だった。なんとなく指さしてお姉さんがサッと盛ってくれる。生ハム的なものを指さしたら「ウーノ?」と聞かれた。ウノ、あ、「1」だ。「ウーノ」と返す。神田うのの名前の由来で覚えていた。ありがとう神田うの。

もう1回おかわりできるかはわからない。店によって違うのだろう。おかずはどれもおいしかった!イタリアはほんとご飯ウマー!でも今までいった外国の国でご飯がまずいと思った国は殆ど無い。イギリスのまずいご飯を食べてみたい!!

 

明日はナポリへ

明後日は帰るだけの日なので、事実上明日が最後の日になる。どうするか決めてなかった。ローマでもいいんだけど、とりあえずローマから電車で1時間ちょっとらしいナポリに行って、気に入らなかったらさっさと帰ってきてローマでうろうろしたらいいと思った。

ナポリといえば美食が有名らしく、ピザや甘いものが有名らしい。うまそ〜!ただ、日曜日は大体の店が閉まっているらしい。ガイドブックを見るも殆どの店が「休」のところに「日」と書いてある。

まあでも明日もいい天気らしいし、ナポリの港から地中海を眺めたりするのもいいかななんて思った。

しかし、自分の中にある「ある気持ち」に気づいていながらも気づかないふりをしていた。もうイタリアにはこれないかも、もう2度とこれないかもという事実と気づかないふりをしている事が混ざり合って、また少し疲れ気味の頭で混乱していた。

とりあえず寝ることにした。明日は早い。とても早い。