さわやかトラウマ一人旅日記

音楽が好きな30代男がぼっちを極めるため、世界や国内をヤケクソ気味に一人旅をしたその記録です!

おじさんぼっちでローマの休日10 :エステ荘の噴水

巡礼の年

自分が出向く地に対して、どんな観光地や見どころがあるのか、手っ取り早く知る方法がある。オプショナルツアーの一覧を見ることだ。その都市から半日で回れるところ、1日かかるところ、その都市から行くことが可能な場所、1泊はかかる場所などが一度に知ることができる。

いつもAlan1.net を参考して、殆どは申し込まないで自力で行くのだが(情報タダ乗りすみません)、今回もローマ近郊について調べていたら、「ティボリのエステ家別荘半日ツアー」というのがあった。

エステ家という言葉に引っかかって、調べてみてびっくりした。世界遺産のエステ家、そこには噴水と美しい庭がある。エステ荘の噴水…!

今からウン10年前><、当時学校でピアノを習っていた自分が試験で弾いた曲、フランツ・リスト作曲の「巡礼の年:第3年」の「エステ荘の噴水」そのモデルになった場所である。イタリアにあるということは知っていたけど、どこにあるのは知らなかった。なんとなく北の方かな?と思っていた。ローマから行けるんだ。

行きたい!

それは強い気持ちだった。「イタリアに何しに行ったの?」と聞かれたら「エステ荘の噴水を見にいったんです」と答えるような勢いである。後付けなのに。

当時譜読みをしながら「エステ荘の噴水」ってどんなものかな?とは思ったものの、当時はインターネットも黎明期でどう調べていいのかわからず、写真でも見たことはなかった。噴水そのものを表した曲というより、水の動きから神への気持ちなどを表した宗教的な曲と書いてあったので、「そうなんだじゃあいいや」とそれ以上調べることはしなかった。

弾いてみると、鍵盤の音色と動きと響きと「水」の表現は凄く相性が合うと思った。水のきらめきと溢れ出る何か(宗教的な感情)、水から派生する命への感謝…そんな感じかなと思っていた。この曲に影響されて、ラヴェルは「水の戯れ」を作って、ドビュッシーも「水の反映」の作曲の際に参考にしたらしい。後にどちらも弾いてみたし、大好きな曲。それ以降、音楽における水の表現は自分の中でも興味の対象となった。

 

心の中に音楽として存在していた「エステ荘の噴水」の本物が見られるんだ。本当に楽しみだった。ちなみにリストはこの「エステ荘」にしばらく滞在して、そこで作曲をしたらしい。作曲した時と同じ(かどうかは、わからないけど)風景を見ることができる。ああ‥素晴らしい!

 

オプショナルツアーは時間が短いとユーザーレビューされていたのが気になり、実際に自分で行った方たちのレポートも沢山あったので、それを参考に自力で行く事にした。

ティボリはローマから30キロ程離れたところにある山間の小さな街にある。そこに世界遺産「エステ家の別荘」として存在している。

ちなみに噴水は一つではなく、広大な庭にいくつもあるらしい。うーん面白そう。

 

ということで「エステ家別荘」への行き方をレポします!

 

Tips :世界遺産「ティボリのエステ家別荘」への行き方

  • 地下鉄B線で「Ponte Mammolo」駅まで行く。テルミニ駅から大体20分くらいかな?
  • 降りてまずバスの到着場が見えてくる。ここは到着場で乗り場は下の階にある
  • その階には「Bus Ticket」のカウンターがあるが、これはローマ市内を走っているバス「ATAC」社のカウンター。
  • ティボリに行くのは「COTRAL」という会社のバス。この会社は青が目印で、バスも青。
  • 自分は土曜に行ったけど、COTRALのカウンターは営業していなかった。
  • 色々売っている売店(タバッキ)の人に「あー ティボリ、ヴィラ・デステ(ヴィラ・エステではなくデステが本当は正しい)バス。チケット???」とか聞いてみる
  • そうすると売店の人が「Around Ticket??」と聞いてきたのでイエースと答えた。片道3ユーロの券を2枚、売ってくれる。

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  • Cotralのバス乗り場。

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  • こんな感じで出発するバスの行き先がモニターに出ていてわかりやすい!Tivoli行きに乗れば大丈夫だと思う。
  • バスは結構混んでいた。観光客の姿はあまり見なかった。
  • バスのシステムはローマ市内のATACのバスと同じく、券を車内で打刻する。乗ってすぐのところにマシンがあった。誰も打刻してなかったけど打刻した。(上の方にある所に券を差し込んで、ピッと音がする)降車時は何もなし。
  • これまたローマと同じで、バスの停留所の案内は何もなし!
  • ヴィラ・デステまで40分ほど。それまでは高速→郊外の平坦な道。
  • 40分近くになると、急に山道を登り初めて、かなりの急カーブを曲がる

 

  • 山道を登って‥登って‥突然パッと街が開ける。そしたら降りればOK。
  • 広場のようなところがあり、そこにバス停がある。
  • 僕はGoogle MapをiPhoneで見ていたため、大丈夫だった。
  • 1つ乗り越しても降りて逆にあるけばすぐ着く
  • 広場の北にエステ家別荘がある
  • ちなみに帰りは乗ったところにバス停がある
  •  違う会社のバスも通るので間違えないように。青いCOTRAL社のバスに乗りましょう。
  • 帰りは終点が「Ponte Mammolo」駅なので安心!

 

心の中の噴水

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広場を山の方にあるくとヴィラ・デステに着いた!

なんとなく地味な印象だが、後で構造を知ってなるほどと思った。ここは丘の上になっていて、建物が庭側に向いているのだ。

最初は建物を見学するルートになる。全てを効率よく回れるように数字と矢印が着いたMAPをもらえた。僕は基本的に真面目なので、ちゃんとその通りに回ってみた。他の見学者のみなさんは自由に気ままに歩いていて「フン」と思った。

推奨されたものはちゃんと守るんだよ!それが・・・それが・・・芸術家なのだ!笑いたければ笑え!そう・・・私はフランツ・リスト・・・あ、この展開もう飽きましたよねすみません止めます。

 

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エステ家の別荘自体は、悪趣味ともいえるコテコテのルネサンス系だった。こんなところにはあまり住みたくない気もする。

お金持ちの別荘だけあって、隠し脱出経路なんかもあった。

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 こういう普通の通路や階段に、当時からの姿が見えるような気がする。特に暗い暗い廊下が気に入った。当時のように蝋燭を持って歩いてみたい。そんな自分を通りすがりの人が見たら、どうせ怖がられるんだろうな。まあ自分でも想像したら怖いと思った。

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建物入り口は地味だったけど中に入って外を見ると「おおーー」と声を出してしまうほどの光景だった。広大な庭園に、そしてどこまでも続く平野…

借景というのだろうか、庭園に丘陵からの壮大な眺めが相まって、本当に贅沢な演出である。さすが金持ちが考えることは違うな。

リストもこの光景を見たんだろうか、と想像してみる。

 

いよいよ庭に降りる。

 

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さまざまな趣向が凝らされた噴水が本に沢山ある。これは後ろが通路になっている噴水。でも中は滑って危険なのか、入れないようになっていた。

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 無数の噴水があり、噴水自体の音と、水の音が響きあった。観光客も少なくて、自然の音と混ざり合いとても美しかった。噴水というのは音も魅力的だと思う。

この噴水も水のラインが、何層にも重なっているように見える階段のところのちょうど真ん中を貫いている。すごい!

 

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整備された庭。

あまりの現実感の無さ。気分が高揚して、自分のまわりで何かの物語が始まっているんじゃないかと期待してみたりする。しかしおじさんが1人で歩く哀しい物語は今日も続いている。

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メインの噴水を下から。

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水の動きを利用して、自動でオルガンが鳴るように細工してある。いつも鳴っているわけではなくて、何時間に1回になる仕組み。ちょうど鳴る時間に待機をする。

あ、鳴ったと思ったら見物の中の子供がその音が気に入らなかったのかギャーと泣きだした。泣く子となんとかには勝てません!ちなみにオルガンの演奏もすぐに終わって結構肩透かしな感じだった。

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メインの噴水の裏から。

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そしてこれがメインの噴水!

 

あ・・・あ・・・

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 おおおおおおおお

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これが、エステ荘の噴水!

「いよいよ来たか…」と僕はiPodとイヤフォンを用意して、音楽を聴き始めた。


Franz Liszt: Les jeux d'eaux à la Villa dEste

 

光が当たったきらめく水飛沫と鍵盤の細かいフレーズが重なった。

楽譜に残されたリストのイメージが、音となって僕に伝わり、そして今目の前にそのものがある。いくつかの感情が溶けこんで一体になった。

ああ…来てよかった。旅行に来てここまでの精神的な充足を感じたのは初めてだった。

単なる名所旧跡に感動したわけではない。過去の実体験と思い出、歴史とこの場所がリンクしたからなのだ。

「エステ荘の噴水」は湧き出る水のような表現から、徐々に探索的で叙情的な控えめなメロディが現れて、だんだんと力強く展開していく。単なる噴水の描写ではない証拠だ。言葉にはできない、音楽にしか表現できない思いがここに込められている。

 

一旦イヤフォンを外して、噴水の音を聴きながら、飽きるまでずっと見ていた。

 

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広い広い庭を満たされた気持ちで歩いた。

ふと思い出して、またiPodを聴いた。このエステ荘が舞台になった曲は、「巡礼の年第3年」の中にもう2曲あり「エステ荘の糸杉に 哀歌」「エステ荘の糸杉に 哀歌2」という曲がある。この曲を聴きながら歩いた。美しい木々を見ながら「これが糸杉かなー?」なんて思っていたのだが、この2曲、タイトル通りかなり暗くて哀しい曲。リストなのにデンデンドーン!チャラリラララリラみたいな派手な感じが一切無い。

「鬱だ!詩嚢!」というリストの叫びが聴こえてくるようである。

リストがこの場所に滞在したのはその生涯でも末期の方で、失意の底にあったようである。哀しみに満ちたこの曲達と、水に対しての祈りのようなエステ荘の噴水、対象的でもあるが、どちらも通じているとも思った。

エステ荘の庭の木々の隙間から差し込む光と、己の哀しみの心、リストは間違いなくここにいたんだ!なんて思ってみる。 

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それにしても素晴らしい光景だ。そして素晴らしい天気!

日本でエステ荘に噴水を見に行こうと思った時は、寒風吹きすさぶ中で噴水見てもなあ、なんて思っていた。しかし1月5日とは思えないくらいに暖かく、素晴らしい天気。

日本ではそんなに良い事が無いので、神様がきっと哀れに思し召してくれたのだろうと思う。

しかし、春や夏に見たらもっと良いと思う。庭園には花も咲き乱れて更に美しいだろう。

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通路一面に、何かの顔から水が出ているオブジェが並ぶ。面白いなあ。

 

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こいつは顔がちょっと自分に似ているような気がして、親近感を持った。

 

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いい加減満足したので、帰ることにした。

ふと見ると、こんなプレートが飾ってあった!こんなものがあるとは知らなかったので感激する!偉大な作曲家リストがここに滞在したということを証明したプレートである。感激して(;´Д`)こんな感じの顔で佇んでいたら、通りすがりの男が「何だ何があるんだ」という感じで興味深そうに覗きこんでいったが、「?」と理解できない様子で去っていった。

おめー何しにここまで来たんだよ。ロマンがわからない奴だな。

 

ということで特別な体験ができました。ありがとう!過去の自分!

ローマに帰るバスはどこで乗ればいいかな?と思って探していたら、ちょうどバスが来たので、乗ってしまった。ティボリの街をもっと見ればよかった。ローマに来たらまた来ればいいやとバスに乗って思った。

でも、本当にもう1度ローマに来ることができるかはもちろんわからない。

(続く)

 

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おまけ:著者近影